航空宇宙推進

極超音速航空機・宇宙往還機

      想定される飛行経路

極超音速機先頭部周りの流線


 輸送需要の増加や宇宙開発利用の推進のため、極超音速航空機や宇宙往還機の研究が世界的に行われています。一時はコンコルドやスペースシャトルといった形で実現しましたが、機体の整備性や運用コストの問題から既に退役しており、恒常的な実用化に向けた課題は多く残っています。私たちはJAXAや他大学と共同でこれらの課題解決に向けた研究を行っています。

 

 私たちが日常利用する旅客機は地上の音の速さの0.8倍 (対地マッハ数0.8) 程度で巡航しています。一方で、極超音速航空機はマッハ数5での巡航を行い、宇宙往還機では地球低軌道へ輸送を行うために、物資をマッハ数23 (第一宇宙速度 7.9 km/s) まで加速させる能力が必要となります。

 

 現在、上記のような超音速飛行を実現する際には、主にロケットエンジンが用いられています。ロケットエンジンは推進剤を全て搭載しているため、宇宙空間でも使用可能という利点があります。大気中の酸素を推進剤の一部として利用する空気吸込み型 (エアブリーザー) エンジンはこの問題を解決することができますが、宇宙空間での飛行能力を持ちません。また高速度域での使用に際してはエンジン自体の加熱なども問題となります。そこで複数のエンジンの特徴を組み合わせた複合サイクルエンジン (RBCCエンジン, PCTJエンジン, etc...) が研究されています。これらの性能は燃焼器自体だけでなく、大気を取り込むインテークおよび推進力を発生させるノズルの機構にも左右されます。従って、エンジン要素の性能評価および性能向上に関する研究を行っています。

”ノズル関連研究” 

 

 また超音速飛行においては、速度が速くなるほど、機体が流れをせき止める際の機体への加熱が強くなります。極超音速機の機体先頭部の流線を見ると、流れが機体に衝突することで、機体壁面付近の気流の温度が赤く上昇していることがわかります。機体への加熱は搭載機器に影響を及ぼすだけでなく、機体の再使用性・整備性の低下にも深く関わります。従って、機体への加熱を正しく評価し、必要な耐熱機構を提案することも、極超音速航空機や宇宙往還機の実現に向けて重要な研究となります。

→”空力加熱 関連研究

 

 

 他にも超音速燃焼器内部の混合や燃焼における課題、騒音被害に対する課題も残されています。過去にはこれらに関する研究も行われており、今後もテーマとなりうる課題です。

空力加熱


 極超音速機が高度24 km,大気温度- 50℃をマッハ5(音の5倍の速さで秒速1500 mほど)で飛行する場合,機体先端や翼前縁などのよどみ点においては非常に強い圧縮により1500℃に達すると予想されます.さらに,エンジンからの排気流はさらに高温かつ高速で全温は2000℃にもなります.一方で,胴体内部にはセンサーや,レーダーなど多くの精密機器が搭載されており,高温になると正しく動作しない可能性があります.そこで胴体は耐熱壁と呼ばれる特殊な材料で作る必要があります.この手法はアブレーションと呼ばれ,氷が水になる際に熱を奪うように材料が融解し,さらに機体全体を覆うことで熱から守ります.これはスペースシャトルでも用いられた手法で,私たちはこの耐熱壁の材質や厚みを適切に設計するためのシミュレーションを行っています.

飛翔体/飛翔物の安定性

航空機の運動

航空機の運動と安定性の名称


 飛行機は空中を飛ぶために三次元的な複雑な運動をします。飛行機の運動は重心による並進運動と重心周りの回転運動で構成されています。方向に応じて固有の名称があります。回転運動により飛行機に生じた姿勢の変化は、飛行機自身の上下運動(Z軸方向)や横滑り(Y軸方向)、速度変化(X軸方向)を引き起こします。一方並進運動も回転運動を引き起こすなど、それぞれの運動は相互に影響しあっています。機体の不安定性は墜落の原因だけでなく、異常な姿勢に陥ることによって荷重が増し,機体の破壊にもつながります。そのため、飛行機が安定的に航行するために、様々な工夫が必要となります。

 

 定常飛行中の飛行機が、外力を受けて飛行姿勢が変化したとき、舵に操作を加えることなく飛行機自体の空気力によって元の定常状態に戻る性質を安定性といいます。安定性には静安定と動安定の種類があり、飛行機が安定であるためにはこれら 2 つの安定を XYZ 軸回りすべてにおいて同時に満たさなければなりません。静安定とは、定常状態から変化した姿勢を元に戻そうとする性質です。一方動安定とは、静安定性によって定常状態時の姿勢に戻ろうとする際、時間の経過とともに復元力に減衰力が作用して動揺の振幅が次第に変化していく性質をさします。静安定は動安定であるために必要ですが、強すぎる静安定は動安定を損なうことがあります。機体が傾いたとき、元の姿勢に戻ろうと力が働きすぎることでかえって揺れてしまう場合です。

 

→”飛翔体/飛翔物の安定性 関連研究1 関連研究2” 

 

 

 飛翔安定性とは、外乱に対して現在の姿勢を維持しようとする性質をさします。安定性が悪い場合、姿勢が保てず目標へ到達できなくなります。飛翔安定性には3つの概念と指標があります。

 

①    静安定性(static stability)

②    ジャイロ安定性(gyroscopic stability)

③    動安定性(dynamic stability)

④    追従性(tractability, trailing)

 

①    静安定性(static stability)

図1に示すように外乱によって離軸角が生じた場合を考えましょう。このとき圧力中心が重心より後ろに位置していれば、離軸角が減ずる方向へ力が働きます。この性質が静安定性です。逆に、圧力中心が重心より前に位置する場合、離軸角は大きくなる。この状態を静不安定(static instable)といいます。

 

②    ジャイロ安定性(gyroscopic stability)

コマがある一定以上の回転速度で回転しているとき、コマのスピン軸が傾いていても転倒しません。この効果を角運動量保存則、あるいはジャイロ効果といいます。これは飛翔体にも適用され、射出時に飛翔体の射出時に回転させることでジャイロ安定性を得ようとしている。

 

③    動安定性(dynamic stability)

ある周期的な振る舞いが生じている場合に、その振幅が前の状態と比べて大きくなるかそうでないかを表す性質を動安定性という。

 

④    追従性(tractability, trailing)

飛翔姿勢が弾道接線方向を向いている性質を追従性という。

 

参考文献

  • 弾道学研究会、火器弾薬技術ハンドブック(改定版)第3版、財団法人 防衛技術協会、2008