デトネーションの基本特性に関する研究

デトネーションとは可燃気体中を超音速で自走し、先行する衝撃波とそれに伴う反応面との相互作用によって維持される燃焼現象を言います。通常我々が目にする火炎はデフラグレーションと呼ばれ、これがマッハ数約0.0001~0.03で伝播するのに対し、デトネーションはマッハ数約5~10という非常に速い速度で伝播します。 デトネーションからは膨大なエネルギーが得られることが知られており工学的な応用が期待される反面、未だ解明されていない部分も多く、その基礎的研究は大変重要視されています。デトネーションの起爆過程の現象解明や、伝播限界近傍において観測されるスピンデトネーションや直管や曲管を伝播するセルデトネーションを目的とし、実験では観察が困難な現象に対して数値解析によって物理的な理解を目指しています。松尾研究室では、デトネーションの発生機構や詳細構造を始めとした様々な基礎特性を解明するために日々研究を行っています。

直接起爆に生ずる球状デトネーションのすす膜イメージ

スピンデトネーション


左図で表される黒い線は、予混合気体が満たされた空間において、高いエネルギーを用いて球状のデトネーションを発生した場合に得られる、その断面での三重点(衝撃波が重なることで表れる高圧点)の軌跡を表しています。デトネーションがある程度伝播すると、三重点が急激に増加することがわかります。これは再着火と呼ばれる現象であり、同現象が起こらずに三重点が減少して減衰を続ける場合は最終的にデトネーションは発生しません。このようにしてデトネーションを高エネルギーにより発生させる手法を直接起爆と呼びます。

右図は円管を伝播するスピンデトネーションです。スピンデトネーションは三重点の数が最も少ない状態(1個)で伝播できるデトネーションの形態として知られており、デトネーションが伝播できる限界近傍で観測されます。当研究室ではその流れの詳細構造や不安定性の影響について研究しています。

くさび周りに観察される斜めデトネーション

鈍頭飛翔体周りの斜めデトネーション


左図はくさび周りに観察される斜めデトネーションの密度分布です。衝撃波によって予混合気が圧縮され、くさび表面から反応面が発生します。下流では反応面と衝撃波面が干渉してデトネーションとなり、波の干渉位置で圧力・密度の高い三重点が観察されます。

右図は鈍頭物体周りに観察される斜めデトネーションの密度分布です。赤く示されている面は圧力の等値面を表しており、鈍頭物体周りに発生する衝撃波面を示しています。鈍頭物体周りでは、入射衝撃波・マッハ衝撃波・横波・反応面といった衝撃波構造が見られます。

管内を伝播する二次元デトネーション


衝撃波誘起燃焼(Shock Induced Combustion)

鈍頭飛翔体周りに生ずるShock Induced Combustion

Shock Induced Combustionにおける反応領域


スクラムジェットエンジンやラム加速器に代表される超音速気流中の燃焼を利用した次世代の推進機関の研究が世界各国で行われています。超音速内の燃焼基礎研究として、燃焼の不安定性によって燃焼形態が変化するShock-Induced Combustionが挙げられます。Shock-induced Combustionとは、飛翔体前方に生じる衝撃波背後で燃焼が誘起される現象であり、燃焼不安定性により反応面が振動する現象です。


デトネーションの工学応用:Pulse Detonation Engine

パルスデトネーションエンジンの二次元解析

近年は、デトネーションの膨大なエネルギーに着目し、それを工学的に応用するための研究が世界中で行われています。応用例としてはラムアクセラレーターや斜めデトネーションエンジン、パルスデトネーションエンジン(PDE)などの次世代推進装置が挙げられ、松尾研究室では特にPDEの研究に力を入れています。

パルスデトネーションエンジン(PDE)は、デトネーションを発生させ推力を得る空気吸入型エンジンです。大気中からの酸化剤取り入れ過程、燃料注入及び混合過程、膨張波による燃焼ガス排気過程の4つの作動過程を必要とします。PDEの利点として、定積燃焼過程による高熱効率、圧縮機を用いる必要がなく構造が簡単であること、飛行マッハ数領域が0から超音速域(マッハ数5 程度)まで使用が可能であることが挙げられます。

 

デトネーション波により推進力を得るためには複数の管から連続的にデトネーションを発生させる多気筒デトネーション管をもちいることが有効であると考えられます。図はデトネーション管から排出されたデトネーション波がノズル壁を伝播し、外部大気に排出される様子を再現したものです。PDEは現在開発段階の次世代推進機関であり、本研究では数値解析を用いて性能評価を行うことを目的としています。

本研究は名古屋大学の実験グループと共同でPDEの実用化を目指し、研究開発が進められています。