注入ノズル上を伝播するデトネーション波の解析

注入ノズルに支えられて伝播するデトネーション波の温度分布

デトネーションとは、衝撃波を伴って超音速で伝播する燃焼波を指します。デトネーションは、(i)圧縮機を無くした単純なエンジン構造を実現出来る、(ii)熱効率の向上が期待されるなどの理由で、次世代宇宙推進エンジンへの利用が期待されます。

 

本研究はデトネーション利用エンジンの1つである回転デトネーションエンジン(Rotating Detonation Engine、RDE)を対象としています。多くの実験において、RDE内部のデトネーションが伝播する速度は、理論的に求まる値より低くなることが報告されています。エンジン性能の低下につながる現象のため発生防止が求められるのですが、原因は明らかとなっていません。

 

そこで本研究では、実験を行う名古屋大学と共同研究のもと、実際の燃料・酸化剤注入方法である別々注入を考慮した二次元数値解析を行い、RDE内部デトネーション波の速度低下および伝播挙動の詳細を明らかにすることを目的としています。

計算領域とパラメータ

 

RDEは外側円筒と内側円柱で構成された二重円筒形のエンジンです。これを本研究では円周方向,軸方向の2つで展開し、矩形領域として扱います。厚み(半径)方向については円周方向長さ、軸方向長さと比べて小さいものと見なし、無視しています。矩形領域の下端に燃料・酸化剤を注入するノズルが配置されており、両者を予混合とするか非予混合・隣り合わせとするか、またノズルの個数をパラメータにとって計算しています。

燃料(エチレン)の質量分率分布

 

本研究では燃料・酸化剤にそれぞれエチレン・酸素を用いています。同じノズル個数であっても、予混合注入とするか非予混合注入とするかで流れ場は大きく変わります。

 

ノズル数25個のもと、予混合注入ではデトネーション波後方にエチレンの分布は確認されず、波面位置で完全燃焼が行われているといえます。この時伝播速度は理論値とほぼ同等です。一方、非予混合注入では全域に渡りエチレンの分布が表れます。ここから波面位置で完全燃焼とならず、燃え残りが生じることがいえます。この時伝播速度は理論値の70%程度に留まります。

 

以上から、(i) 予混合注入では伝播速度に変化は生じないこと、(ii)非予混合注入では伝播速度は低くなることがいえ、燃料・酸化剤の混合不十分が伝播速度に影響すると考えられます。

流れ場の最大圧履歴

 

予混合、非予混合注入によらず、ノズル数の少ない条件はノズル数の多い条件と比べて伝播挙動も変化します。流れ場の詳細を追うため、高圧部の軌跡(最大圧履歴)に着目します。

 

非予混合注入のもと、ノズル数200個の条件では、高圧部の軌跡が全域に渡り繋がっていることを確認できます。この時、非予混合注入であっても伝播速度は理論値とほぼ同等です。一方、ノズル数25個の条件では、軌跡が途切れ途切れとなります。この傾向は予混合注入でも同様に表れます。

 

ノズル数の少ない条件で軌跡が途切れる理由として、ノズルの間により多くの既燃気体が入り込むためと考えられます。既燃気体中では燃焼が促進されず、高圧部が表れなくなります。

 

以上を踏まえると、既燃気体の入り込みは予混合、非予混合注入によらず伝播挙動の変化に影響し、また伝播速度にも影響を与えることが考えられます。